ベルリンでの思い出

ベルリンにいた頃、馴染みのバーでよくスケッチブックに絵を描いていた。

そこのバーのマスターは年はかなり上なのだがアーティストで何かと馬が合い、色々な話しを聞かせてもらった。

ある日そのマスターが「1枚絵をくれないか?」と言ってきた。
多分いつもスケッチブックに描いている中からと言う意味だったと思うが、後日 私は20号位の絵をプレゼントした。

その時のマスターの驚きと感動の顔は今も忘れる事はできない。

その後、カウンターでいつもの如く絵を描いていると見ない顔の客が入ってきた。

もう既にかなり出来上がった二人組だ。
「トイレは何処にある?」大声で藪から棒にマスターに言ってきた。

一瞬にしてバーの中に緊張が走った。

マスターは丁寧にトイレのある場所を教えこう言った。
「ここはバーで酒を楽しむ所だ。酒の注文もせずにトイレに行くのは紳士ではない」

まぁ見るからに紳士ではないよとツッコミを入れそうになったがグッと堪えた。

トイレから帰ってきた二人組はビールを注文して私の隣りに陣取った。

ガタイの良いアフリカ系黒人でかなりヤバイなと思ったが案の定私に絡んできた。

横目に私の絵を見て一人がとても気に入り自分をモデルに描けと言ってきたのだ。

勿論答えは「No」だ。

それでも食い下がり言ってくるが私も答えは変わらない。

マスターが慌てて止めにきて助かった。
そこでマスターはサラリと言った。

「アーティストに強要しちゃいけないよ。アーティストは描きたいモノを描くものさ。お金を出すなら話しは別だが」

なんなんだよそのカッコ良さは!

大人しく二人組はバーを後にした。

すっかり惚れ込んだ私は(そっちではない)またいつもの如くカウンターにいた。

マスターの知り合いなのか陽気なトルコ人が飲みに来た。

私にもフレンドリーに声を掛け絵を見るなり賞賛の声を上げた。
「ビールを奢るから1枚描いてくれないか?」と言う頼みにマスターの知り合いならしょうがないと描いてやった。

一仕事終えた後のビールを味わっているとそのトルコ人のオッチャンは私の手を握って撫でてきた。

勿論答えは「NO!」だ!
画像は本文とは関係ない友達のシュテファン。

Hirobumi FUJITA

画家 藤田ひろぶみ

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